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函館地方裁判所 昭和38年(ヨ)69号 決定 1963年10月16日

申請人 川田吉也

被申請人 木村善司 外三名

主文

本件申請を却下する。

申請費用は申請人の負担とする。

理由

申請人の本件申請の趣旨並びに理由は、本件仮処分申請書から引写した末尾添付の書面並びに補充申立書記載の通りであつて、疎明として疎甲第一号証、第二号証ノ一、二、第三ないし第七号証、第八号証ノ一、二、第九号証、第一〇号証ノ一ないし五、第一一、第一二号証、第一三号証ノ一、二、第一四号証、第一五号証ノ一、二、第一六号証、第一七号証を提出した。

按ずるに、申請人の主張は要約すると次の通りである。即ち、

被申請人らは恒産組殖産株式会社の取締役であり、且つ被申請人木村善司、同網塚忠雄はその代表取締役であつて、同会社の商業登記簿上、昭和三七年八月一五日右就任した旨の登記が同月二一日になされている。しかしながら同登記簿によれば、これより先同二六年一一月一八日木村正夫、瀬戸信吉、飯田勝治が取締役に就任し、木村正夫が代表取締役になつた旨登記されているが、右取締役及び代表取締役選任の基礎となる同二六年一一月一八日に開催されたという株主総会は申請人主張の如き経過、理由により不存在若しくは無効である。その後右の者が同会社の役員として同会社の株主総会を招集し、これが開催され、決議を経て同会社役員の選任改選がなされていて、数次の株主総会の開催、決議、役員の選任を経て前記の通り被申請人らがその取締役等になつているのであるけれども、右二六年一一月一八日に就任したという役員はその選任を受けた株主総会に法律上の効力が認められないのであるから、従つて、それらの役員によつて招集された株主総会においてなされた同会社役員の選任改任の法律上の効力も否定されるべく、ひいて被申請人らも同会社の役員たる地位を取得できない筋合いとなるから、申請の趣旨に揚げたように、被申請人らに対し取締役、代表取締役の職務の執行の停止並びにその停止中職務代行者の選任を求める、というに帰する。

しかしながら、申請人は、これよりさき、昭和二九年一一月二七日開催の恒産組殖産株式会社の株主総会の決議不存在を理由とし、木村正夫を相手方として函館地方裁判所に代表取締役の職務執行停止、職務代行者選任の仮処分を申請し(同庁昭和三二年(モ)第二〇号)、昭和三四年七月七日、その控訴審である札幌高等裁判所函館支部において、昭和二九年一一月二七日開催の株主総会の決議が無効であることについての疎明がないとの理由で申請人の右仮処分申請を却下する旨の判決(同庁昭和三三年(ネ)第五一号)がなされ、右判決が確定したことは当裁判所に顕著な事実である。

ところで、仮処分判決においては、被保全権利の終局的確定がなされるものではないけれども、仮処分を発するための要件の存否をめぐる紛争について最終的な公権的判断がなされるものであつて、右公権的判断の当否が同一構造をとる後の仮処分事件で再びむし返されるときは法的安定と訴訟経済の理念に反すること通常の民事訴訟におけると異るところはないから、後の仮処分事件においては右公権的判断に反する主張や判断をすることはできないと解すべきであり、又いわゆる職務執行停止、代行者選任の仮処分事件については、通常職務の執行を停止されるべき取締役等が被申請人となるものとされているが、右取締役等は本案訴訟における被告たる会社の機関であり、且つ右仮処分事件における被保全権利は会社に対する決議取消、無効等の請求権であることを考えれば、前記のような拘束力は、当事者と同視すべき地位にある第三者としての会社及び会社機関たる個人に対しても及ぶものと解するのが相当である。

これを本件についてみるに、申請人は前記のとおり右会社の昭和二六年一一月一八日開催の株主総会の決議が不存在であり、従つて右総会の決議に基礎を有する昭和二九年一一月二七日の株主総会の決議も法律上の効力がなく、ひいては本件被申請人らが取締役に選任せられた昭和三七年八月一五日の株主総会の決議も右同様法律上の効力がないことを主張するものであるが、右昭和二九年一一月二七日の株主総会における決議の無効の主張は、前記の理由によつてそれ自体失当である。

そして申請人は右昭和二九年一一月二七日の後に開催された株主総会の決議に固有の瑕疵を主張していないのであるから、結局申請人の本件申請はこれを認容することができないものである。

よつて、本件仮処分申請を却下することとし、申請費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 長利正己 大西勝也 菅原晴郎)

別紙

一、申請の趣旨

(一) 申請人より恒産組殖産株式会社に対する御庁昭和三八年(ワ)第二五一号取締役及び監査役選任の株主総会不存在確認等請求事件の本案判決確定に至るまで、被申請人等は同会社の取締役、被申請人木村善司、同網塚忠雄は同会社の取締役兼代表取締役の職務の執行を停止する。

(二) 右職務停止期間中、同会社の取締役兼代表取締役の職務代行者として相当なるものを御選任相成りたしとの御決定を求む

二、申請の理由

(一) 申請人川田吉也は、前記恒産組殖産株式会社の全株券千株のうち九百七十株の株主であり、昭和二十二年十一月二十三日取締役に、同二十六年八月二十八日高橋清美及び橋本金二とともに代表取締役となり任期満了により退任した。(右会社の業態及び申請人の株券取得原因については本訴状第一項に記述)

(二) 而して、申請人の亡父川田竜吉が同二十六年二月九日、同社の所在地である上磯町(当時茂辺地村)当別において死亡したのを機として申請人は前記肩書地の代々木上原に帰宅したところ、同年八月頃函館の瀬戸信吉といふ男が上京し函館市万代町二百二十番地木村正夫の代理人として、川田夫妻の面接し同社所有の北海道上磯部二股にある山林の立木を売つてくれと申入れあり、最初期待する程の数量はないからと断つたが、瀬戸は既に調査済みであるから売つてくれと飽くまで喰い下がつたので右立木を金四拾万円で川田は木村に売却した。しかるところ、これが動機となつてその後木村及び瀬戸両名が上京して、川田夫妻に対し前言をひるがえし、立木は不足していたから詐欺だなどと脅迫し、ほかの土地の立木をくれと強要され、川田もさらに他の地域の立木を売ることを余儀なくされた。そして、同年十月中、川田夫妻が函館に行つて駅前の函港ホテルに泊つていたところ、右瀬戸が来て「実は大変なことになつた、恒産組会社の立木は税務署から差押になつているのだが、それを川田が木村に売つたので税務署は川田を告訴することになつた」と云つたので川田は大いに驚愕した。そこで川田はどうしたらよいか、と善処方を相談したところ、「それは木村に滞納金の税金を即刻支払つて貰い、そして木村に税務署の差押を解いて貰つたらよい」と云つたので、川田は右の言を信じ、前記川田所有の九百七十株の株券を木村に売ることになつた。その滞納税金と云うのは、当時川田が直接調査ができず実情がわからなかつたのであるが木村、瀬戸の云うのには、会社分が六百五十万円、川田個人分が五十万円計七百万円と云う多額のもので、右株券を売つてくれるならば木村が右滞納税金を即刻支払つてくれると云うことであつたため、九百七十株の株券は不当に安い金二百十万円という安価の代金で売却せざるを得ないこととなり川田は函館出立の際青函連絡船内で木村の代理人瀬戸から右代金の内金として金三拾万円を受取つた。

(三) 而して、同年(二十六年)十一月十五日、川田が在函中木村と話合つた事柄を骨子として湯河原温泉天城屋旅館内で両者間に最終的な契約が結ばれた。(但し契約書は作成しなかつた)そのとき立会つた人は、木村正夫、瀬戸信吉、川田吉也、川田ふき、訴外榎本修平の五名であつた。

そして、その契約の内容は、

(1)  さきに二股の立木代金として本村より川田に支払つた代金四拾万円は川田より木村に対し返還を要しない。

(2)  滞納税金会社分六百五拾万円、川田個人分五拾万円計七拾万円は木村において之が支払いを引受け直ちに支払う。

(3)  九百七十株の株券の代金は二百十万円として遅くとも同年十二月末までに支払う。

(4)  右契約の履行、即ち、右滞納税金及び株券代金の完納までは、川田は木村に対し、同社の経営のみを委任し、右株券九百七十株を預託しておくこと、木村において契約履行後において、川田は代表取締役を辞任して、株券九百七十株を木村に譲渡し、木村を同社の代表取締役にすること。

(5)  同社内にある川田個人の財産は、木村が保管し、且つ木村は経営受任中同社内旧別荘を使用し、同建物内にある川田家の財産一切を新別荘に移して保管すること。

そこで、前記のように、川田はさきに株券の代金二百十万円のうち、三十万円を受取つていたので、右契約日には、木村より現金八十万円と額面五十万円の約束手形二通を受取り、九百七十株の株券を木村に預託した。その際、勿論、右約定により株券のみを預託し株券の名義書換の委任状や、株券の譲渡証書やその他の書類一切は渡さなかつた。

(四) ところが木村は、川田に対し右約定を履行しなかつたのである。即ち、前記(2) の滞納税金七百万円を支払はず、しかもこの金額は全く虚構のもので、これはその後の同三十二年八月九日、御庁の仮処分決定によつて取締役兼代表取締役の職務執行者に選任された訴外弁護士登坂良作氏によつて約四百万円の滞納税金が支払われたことによつて明かに証明されるところである。更には、前記(3) の約定、即ち、本契約の株券代金二百十万円の残代金百万円は約束手形によつて支払はれることとなつていたところ、これが容易に支払はれず木村は翌同二十七年六月中十万円支払つたまま書き換え手形、即ち額面四十万円振出日同二十七年三月十二日、支払日同年五月三十一日と額面五十万円振出日同年三月十二日、支払日同年六月三十日の各約手は、川田が支払場所において呈示し支払を求めたが、何れも不渡となつた。依つて川田は同二十九年七月二十三日内容証明郵便を以つて七日間の催告期間を附し同期間中に支払はれなければ、本契約を解除する旨催告並びに通告をしたが、今日に至るも木村は之が支払をしなかつた。されば右契約は解除になり、株券の譲渡は最初より効力を生じないものである。

(五) 而して、一方恒産組殖産株式会社は、(1) 昭和二十六年十一月十八日定款変更と取締役及び監査役選任、(2) 同二十七年十月十四日、取締役選任、(3) 同三十四年十一月十八日、定款変更と取締役及び監査役選任、(4) 同三十五年四月四日、取締役及び監査役選任(5) 同三十七年八月十五日定款変更と取締役及び監査役選任の株主総会をそれぞれ開催し、右(1) 、(2) 、(4) ないし(5) について各商業登記をしたが、これは何れも無効である。その事由は下記の通りである。即ち、その一は、当初の右(1) の昭和二十六年十一月十八日の株主総会決議に参加せる株主と称するものは、株主名簿によれば株主は前記木村正夫一人丈けであり、同日の総会議事録に株主として出席したことになつている木村森之助、木村善司、中田せんえん、瀬戸信吉、飯田勝次、松本知和、渡辺チカは株主ではなくこのことは御庁の別件である昭和三二年(モ)第二〇号仮処分異議事件において被申請人木村正夫の本人訊問において、木村森之助以下八名は「右総会にどのような資格で出席したのかとの御尋ねですが、私は本件株券の交付を受ける以前から、その人達と話合つて将来皆さんに株を引受けてもらつて、皆さんに株主になつてもらうことにしていたのであります」との供述によつても明かなところであり、故に木村正夫一人丈けの株主総会と云うものは有り得ず、又この木村も前記屡述のように適法に株券を譲受けて株主となつたものでないから、右株主総会は全く無効であり、不存在である。その二は、前記(五)の(1) の昭和二十六年十一月十八日株主総会の当時、商業登記簿謄本によれば申請人川田吉也外二名は代表取締役を辞任したる旨登記しあるも、これは同人等の全く関知しないことであるが、仮りに辞任したものとしても商法第二百五十八条により、新に取締役が選任されるまでは、辞任した取締役は取締役としての権利義務を有するものであり、商法第二百三十一条により総会の招集は取締役会において決定すべきところ、右川田等において右二十六年十一月十八日当時株主総会を招集する旨の決定も又招集の通知もなしたる事実なく、右総会決議の議事録によれば、木村正夫が招集し、同人が議長となつて前記木村森之助以下の無株主によつて定款変更と取締役及び監査役選任の決議をしたものであるから、商法第二百五十二条により右決議は全く無効不存在のものであり、又右無効決議によつて選任されたる取締役による取締役会によつて選任されたる代表取締役木村正夫も法上全然無効である。

従て、右昭和二十六年十一月十八日の株主総会決議が法上無効であるからには、これにつながる前記(五)の(2) ないし(5) の株主総会決議も当然無効であり、申請人川田は、現在依然として九百七十株の株主であり、且つ商法第二百五十八条により、同社の取締役として権利義務を有するものである。依て、申請人は、以上事由を以て本日御庁に、前記(五)の(1) ないし(5) の株主総会決議不存在確認並びに右決議に基きなしたる商業登記抹消登記手続請求の訴を提起した。

(六) 而して、被申請人等は前記(五)の(5) の株主総会において、取締役に選任され、そのうち被申請人木村善司、同網塚忠雄は取締役会において代表取締役に選任され、形式上は一応取締役及び代表取締役として商業登記簿に登記され、従て被申請人等において会社の財産を自由に処分することが出来、前記もと代表取締役であつた木村正夫時代より現在の代表取締役である被申請人等両名に至るまで右両名の指揮のもとに同社所有の山林(上磯郡上磯町字当別八百六拾番山林壱千四百弐拾八町参反七畝拾歩外二八筆)の立木は、現在まで相当多量伐採他に販売処分され、今なお継続されており、又同社所有の土地内にある岩石(主として火山岩である玄武岩、安山岩など)は石材(砕石による割栗石建築基礎原料など)に利用されるに全く適当のものであり、しかもその埋蔵量は無尽蔵であるところから、之等の石材は目下盛んに右両名指揮下に採取販売されている情況にあり、又、代表取締役としての報酬を会社より受領し、又、前記の如く法上株主でないのに形式上株主とされているため、不法に株主としての配当を受けているのである。然らば、このような事態がこのまま継続されて行くときは、真実の株主であり、又代表取締役である申請人川田の受くる損害は、まことに莫大なものであり、後日申請人が本訴により勝訴判決を受けるとしても、到底回復することができない莫大の損害をこうむること必定に付、前記申請趣旨記載の御決定を求めるため、本申請に及ぶ次第である。

仮処分申請の補充申立書

一、申請の理由の(五)の冒頭「而して………(七行目)これは何れも無効である」を下記の通り補充するものである。「而して、一方恒産組殖産株式会社は、(1) 昭和二十六年十一月十八日定款変更と役員選任の株主総会を開催し、取締役に木村正夫、瀬戸信吉、飯田勝治、監査役に柳原隆を選任し、同日の取締役会において右木村正夫を代表取締役に選任し、(2) 同二十七年十月十四日株主総会を開催し、高橋清美、松本知和、永田悠三郎、高橋国信を取締役に選任し、次いで同二十九年十一月二十七日、株主総会を開き、全役員重任の決議をなし、(3) 同三十四年十一月八日株主総会を開き、定款変更と役員選任の決議をし、取締役に渡辺チカ、広瀬照善、監査役に中田不二を選任し、同日の取締役会において、木村正夫、木村善司を代表取締役に選任し、(4) 同三十五年四月四日株主総会を開き取締役に網塚忠雄を選任し、同日の取締役会において右網塚を代表取締役に選任し、(5) 三十七年八月十五日株主総会を開き取締役に木村善司、網塚忠雄、広瀬照善、渡辺チカを、監査役に笹原章造を選任し同日の取締役会において、木村善司、網塚忠雄を代表取締役に選任し、右(1) ないし(5) の事項について各商業登記をしたが、これは何れも無効である。」

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